髙木聖雨先生

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対談 Vol.01

日展理事 恩賜賞・日本藝術院賞作家髙木聖雨 氏

記念すべき対談シリーズの第一回ゲストは、この方を置いて他には考えられませんでした。書家 石野華鳳が目指す正統な書の礎となる、大東文化大学での学びを支えてくださった恩師、日本の書道界を代表するといっても過言ではないほどにご活躍されている書家 髙木聖雨氏です。石野華鳳との出会いから、ジャンルを問わずプロフェッショナルを志す人たちへの金言まで、貴重なお話をお伺いすることが出来ました。

―華鳳との出会いについて教えて下さい。

髙木

最初の出会いは、大学入試の前にあった金沢の未来創造書道展という展覧会です(※1)。その授賞式に華鳳さんがいました。どこのキャバクラのお姉ちゃんが居るんだと思ったんですけど、賞状をもっていたので、ああ受賞したのか、と(笑)
それで、授賞式が終わったあとに大東文化大学の入試説明会を開いたわけです。すると書道学科の説明を聞きに来たのは、華鳳さん一人だけだった。聞けばどうしても大東文化大学に入りたいと言う。

華鳳

そうでしたっけ?(笑)

髙木

そう、そして大東文化大学をうけるにはどうしたら良いかということで、相談にのると、まだ定時制の3年だって言うんです。

華鳳

そうでしたね。

髙木

まだ1年卒業できないからということで、大検を受けるっていうんですよ。その熱意に感動してしまいましてね。

華鳳

そこまで立派な感じではなかったですよ(笑)

髙木

いや、でも本当に字もうまかったから、ぜひとも大学側も入ってほしいということでね、ぼくも密かに応援していたんですよ。

華鳳

そうだったんですか?全然知らなかった(笑)

髙木

高校の校長も心配してたよね。

華鳳

してましたねぇ!

髙木

まあ、出会いはそういう経緯です。

―期待されて入学した華鳳ですが、大学での印象や生活態度はどうでしたか?

髙木

印象と言われても、ほとんど大学で見ていないですよ(笑)他の先生に福田さん(華鳳の旧姓)ちゃんと授業来てる?って聞いたら、「ああ、福田さんなら授業の途中で教室の外に出てウォーキングの練習してますよ」っていうんです。モデルを目指しているみたいだったから、仕方ないかなと思ってました。

華鳳

でも、それは1年生のときだけですよ!

髙木

そうだったっけ?僕のところに習いに来るって言ってたのだけど、基本的には四年間の在学中にうちにお稽古に来たのは2回だけだったよね。

華鳳

もうちょっと行ってたと思うんですけど(笑)

髙木

というわけで、1,2年生のころは、書道を一生懸命やっていたとは決して思えないですね。

―その後はどうでしたか?

髙木

華鳳さんが三年生のある時、3人位で車に乗って移動することがあって、どう?生活は。って聞いてみたんです。そうしたら、今ちょっと心配なことがあってって言うんです。弟のことが心配だと。

華鳳

それ、先生いつもおっしゃるんですけど、わたし覚えてないんです(笑)

髙木

そう、それで、弟のことを心配するようになったんだなと思って。だいぶ人間が変わってきたなと思うことがありました。

―人間が変わる。大切なことですね。

髙木

そうなんです。卒業式のときにね、書道学科だけ集まって卒業証書を授与するんですよ。そこで教員がひとりづつ卒業生に向けてメッセージを送る機会があるんですけど、その時ぼくは、ほとんど授業に来てなかったけど、卒業する間際、大学生活の後半になって、本当に人間が変わって、書道を一生懸命やるようになった子がいたって話したんです。そうしたら、書道学科のそこにいた誰もがみんな福田さんのことだって気づいて(笑)

華鳳

(笑)

髙木

あの不良少女がこういうふうに挫折から始まって、書道を一生懸命頑張って、今卒業できるっていうのは本当に嬉しいって言った記憶があるんです。書はやっぱり人間を変えるんだって。そうしたら華鳳さんは泣いてました。

華鳳

泣いてないですよ!(笑)

―さて、ここからは、書道・書作に関することをお伺いしたいと思います。 髙木先生が作品を書く時に最も大切にしていることはなんですか?

髙木

ぼくは簡単に言えば「気」ですね。

―「気」ですか?

髙木

そう、「気」という文字がついた言葉というのは本当にいい言葉ばかり。悪い意味は無いんです。例えば、(周りを見回して)こういうスペースだと、その種の「気」が満ちているわけです。簡単に言うと、こういうところで字を習うのと、ただ机だけがあるなにもない習字教室で字を習うのとでは全く違うということです。その違いは、この場所が「気」を与えてくれているからです。
だから、作品を書くときには、その「気合い」とか「気持ち」とかを一生懸命込めて書かないといい作品は出来ないと思うんです。

―なるほど、それで「気」なんですね。

髙木

もちろん、技術の鍛錬も必要です。でも作品を書くときには「気分良く」とか「気合を入れて」とかそういうことをいつも念頭に置くようにしています。

―大切なことですね。ちなみに華鳳さんはいかがですか?

華鳳

私ですか?!

―先生のあとで話しにくいとは思いますが(笑)

華鳳

私は、まだ技術が全然追いついていないので、やっぱり古典をきちんと学んでないがしろにしない作品作りを一番大切にしています。まだ技術的なことに考えが行っちゃいますね。強い線をひこうとか、そういうふうに頑張っちゃう。

髙木

それも大切なことです。「気」っていうのは自然に生まれてくるものだから、それこそ「気」にすることなくやれば自然と入ってきます。だから、こういうスペース、環境づくりをすることはとても良いことですよ。

華鳳

ありがとうございます。

髙木

ぼくは今大学院の授業にも行くんだけれど、そこで村上華岳(※2)が言った言葉をよく引用するんです。「制作は密室での祈りである」っていうね。密室には「気」が充満しているんですよね。それは自然とそういう環境づくりをすれば「気」が入ってくるっていうことを表している。だからことさら意識する必要は無いと思うんですよね。街を歩いていて、目に入った500円の食器が、とても気に入ったとします。その食器で食べるご飯は絶対に美味しいんですよね。値段とか関係なく、気に入ってるからです。それで、書を書くのであれば、部屋の隅にお気に入りの花瓶をおいたり、好きなものを部屋の中においておくだけでも、気分が高揚していい作品が出来る。意識する必要は無いんです。

華鳳

よくわかりました。

髙木

繰り返しますが、技術の鍛錬も必要です。これは一生続けなきゃいけない。「気」と技術、その2つが相まって「良い書」が生まれるわけです。

―「良い書」の定義はどう考えておられますか?

髙木

これはぼくの師匠が言っていたんですけど、「良い書」と「上手い書」があるって。どっちが言われて嬉しいかって。どう思う?

華鳳

わたしは「良い書」が嬉しいです。

髙木

そうだよね。でもそれは歳をとってある程度人格が出来たところで生まれるのかもしれない。最初は技術を鍛錬して「上手い書」を目指していく、そして人間形成されたところで「良い書」になる。もちろん両方ちゃんと兼ね備えた作家も居るので、両方言われるのがベストなんですけど、コレがなかなか難しいんです。

華鳳

本当ですね。

―髙木先生は「良い書」を沢山目にしてきていると思うんですが、例えば作品を評価しなければいけないとき、どこに注目して評価しておられますか?

髙木

評価となるとやっぱり「線」ですよね。線の強さとか張りとか、その中にある艶やかさとか。そういうものが作品中に混在していることが、良い作品の条件ですね。

華鳳

なるほど。

―どうすればそういう良い作品を生み出すことが出来るんでしょうか?髙木先生のインスピレーションの源はなんですか?

髙木

先程挙げた「気」に加えて、やはり良いものを見ることです。
古来から名筆と言われているようなもの、これを実際に見ることが大切です。書道では「目習い」ともいいます。
もちろん見真似て実際に書く「臨書」も勉強になります。引き出しを沢山作る意味では良い方法です。
でも、目習いは意外と重要で効果的なんです。実際に書かなくても、頭に残ったイメージが作品に影響するんです。
例えば、私はよく仏像の展覧会に行くんですが、そこで見たふくよかで穏やかな仏像の表情からインスピレーションを受けて、優しい字を書いてみたりすることがあります。だから、書に限らず、どんなものでも「本物」であればそこから学ぶことが出来ます。
もちろん印刷物でも目習いにはなりますが、やはり現代作家のものでも古いものでも、実物を見ること。
ガラス越しに見るんじゃなしに、目の前で見る。生きた線とか墨の色とか。そういうことに貪欲にいたいですね。

華鳳

そのとおりですね。私も実は髙木先生の作品を買ってその大切さを知りました(笑)
いままでは買ったことがなかったので、身近に本物を置くことがなかったんですけど、毎晩見るようになってから、やっぱりなんか自分の書が変わった気がするんです。影響されているんだなって実感しています。

―高度な共感ですね。髙木先生が書のプロフェッショナルとして第一線で活躍し続けるために心がけていることはありますか?

髙木

まだ自分ではプロフェッショナルとかね、そういうような気持ちを持っていないんですよ。
だって今ぼくは70歳になるんだけど、まだ書道界では使い走りでしょ(笑)

華鳳

いえいえいえ。

髙木

いや、本当。だって書道の先生方を見て下さい。みんな95歳とか94歳とかでも矍鑠(かくしゃく)としていて、読売展とかにも出されている。迫力ある字を書かれている。70歳なんて2まわり下だからね。そうするとプロフェッショナルとは言えないなと。

華鳳

そんなことないですよ。

髙木

でも、それでもプロフェッショナルと言っていただけるのであれば、それは作品を書くだけじゃなく、書道の普及について考えていかなければならないということかもしれません。

華鳳

書道の普及ですか。

髙木

はい。野球も人口が減ってきている、だから選手たちも成績だけじゃなくサービス精神が必要になっているという話を聞きました。それと同じです。書道もプロがちょっとみんなに目線を合わせて、普及させる努力をしなければいけない。それが今プロに求められていることなんじゃないかなと思います。これはどの世界でも一緒のことだと思います。

華鳳

なるほど。

髙木

良い書っていうのは、95歳とかになって、死ぬ間際には書けるかなと思ってるんですけど(笑)プロフェッショナルっていうのは、死ぬ間際のいい仕事の前に、もうひと仕事することなんじゃないかなって思います。

―書道教室華は、先生のそうした教えを含め、書道を普及啓発するために、今指導者を増やしていこうと考えています。そのための専用コースも用意しました。
髙木先生が指導者として心がけていることがあれば教えていただけますか?これから指導者を目指す人達にとって金言となると思います。

髙木

指導者であるからにはやはり、自分が上達していかなければならないですね。だから相当の練習量が求められる。
それに加えて、どう教えるかっていうことが関係してきます。その人に合わせて教え方を考えなければいけない。懇切丁寧に教えてあげることで伸びる人もいれば、ある程度自由にやってもらって、道から飛び出てしまいそうになったら戻してあげるという教え方もある。書道は好き勝手なことをやっちゃいけないんですよ。

華鳳

好き勝手といいますと?

髙木

最近は好き勝手やっていることがマスコミにもてはやされている傾向が見られます。でも、書道は思いつきでやっちゃいけない。道があって、それを飛び出てしまってはいけないんです。それは古典とかそういう継承していかなければいけないものがあるということです。読売新聞が謳っている「本格の輝き」とか「古典の香りのする書」とか、そういう正統的なことを教えて行く必要があるんです(※3)。ぜひそういう指導者を育成してもらえたらと思っています。

―やるしか無いね!

華鳳

やるしか無い!

髙木

でも、(飾られている作品を見て)こういう字を見るとね、明らかに正統的な北宋の時代の、米芾(べいふつ/※4)とか王鐸(おうたく/※5)とかそういう古典の匂いがしっかりしていて、しかも青山先生(※6)とかぼくらの字の現代的なタッチに似て書いているのがわかる。こういう正統的な指導法を続けていってもらえると良いと思いますね。

華鳳

ありがとうございます!がんばります!

―最後に、華鳳を始め若い世代に期待することはありますか?

髙木

とにかく今は若手が少なくなってきている。むかしは書道は年寄が長年かけて技術を磨くものだから、若いとだめだと言う人がいたんだけれど、今はそれは間違いだと思っています。若い人だって、枚数を重ねて一生懸命書けば良い書は出来るわけで、若い人がもっと若い人を育てていってくれればと思っています。旧態然とした方法にとらわれずに、色々工夫して人を集めていってほしいですね。なので、お稽古ごととプロフェッショナルを目指す人を分けて指導するのは良い方法だと思います。

華鳳

がんばります!

日展理事 恩賜賞・日本藝術院賞作家

髙木聖雨(たかき・せいう)

1949年岡山県総社市生まれ。父は故・高木聖鶴氏(文化勲章・文化功労者)、師は故・青山杉雨氏(文化勲章・文化功労者)。現在、大東文化大学文学部書道学科教授、同書道研究所所長、読売書法展常任総務、謙慎書道会理事長など、日本書道界の中心で活躍。自身の作品制作のみならず、後進の育成にも力を入れる、日本を代表する書家のひとり。2017年「恩賜賞(おんししょう)・日本芸術院賞」を授賞。

※1:大東文化大学が2013年まで開催していた書道展。北陸における書道文化発展を願い、小中高生を対象に福井・富山・金沢で開かれていた。
※2:大正〜昭和期に活躍した日本画家。晩年まで主に仏画を中心に創作したが、「裸婦」など、東西問わず様々な画風をルーツとする近代的な作品も残している。
※3:読売新聞社は1984年から、古典・伝統の書を中心とする厳格な1人1点主義の公募展「読売書法展」を開催している。「本格の輝き」はその開催母体である読売書法会の掲げるスローガンの一つ。髙木聖雨氏は同会漢字部門常任総務(2019年現在)
※4:米芾は11世紀ころ中国北宋時代の書画家。書は宋代四大家の一人に数えられる。また、絵画では山や樹の大体の形を水墨でとってから、ぼかしや墨の点描を加えてかき上げる「米法山水」を創始した。
※5:王鐸は16世紀ころ中国明・清時代の書画家。行草においては情熱や意気そのままに自由奔放な筆を振るい、激しい連綿草の一様式を樹立。当代一と呼ばれた。一方で、山水画は簡素で平明な作風で知られている。
※6:髙木聖雨氏の師匠である青山杉雨氏のこと。篆書(てんしょ)・隷書をもとに独自の表現様式を確立した書家。1992年文化勲章受賞。翌年80歳で没

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